彼はうちに来る前、つい最近まで外に住んでいたわけだから、
当然夜となれば野生の本能にかられ外に出てゆく。
一晩中外で何をしているのか知らないけれど、ある日彼は傷だらけの顔で帰ってきた。
耳の当たりをひどく引っかかれ血がにじんでいる。
多分他の猫とけんかでもしたのだろう。
外を歩き回っている猫達に猫同士のけんかは普通だろうが、
私達の住んでるこの土地にはその他に彼らの敵がいた。
コヨーテである。
私達の家はカリフォルニア南部のモハベ砂漠のなかでも手付かずの自然が残る
高地砂漠地帯にあった。夜になると家の周りでコヨーテが連呼し合い、
庭先にもえさを求めて腹をすかした彼らがやってくる。
夜,庭に水を撒く時、私は何度も彼らに出くわした。
木も水もほとんどない閑散としたこの荒野で、のらのら散歩している飼い猫たちは
彼らの格好の食事であるらしい。
その実録として、私の友人の猫はある日砂地に足跡を残して消えてしまったので、
それを追っていくと、しっぽだけがポトンと砂の上に残っていたというし、
ある人は窓の外で激しいねこの鳴き声がするので、外を見るとコヨーテが猫をくわえて
ぶんぶん振り回していたという。裏の公園には猫のスケルトンが転がったりしていた。
全く信じられない話だが、本当なのである。
だから私は彼を家猫にすることにした。
彼にとって自由な外にいて荒野でえさを捜し求めさまよう事と、
外は恋しいが十分な食事が取れる事と、そのどちらが本当のシアワセか分からないけど、
1度中にいれてしまったし、この土地で彼がえさにありつけるとは思えないので
私はとにかく彼をそばに置くことを選んだ。
それに私達の家は米軍の基地内で、ハウジングの規則にペットを放し飼いにしてはいけない。
というのがあるので、どちらにしても飼うのならば家猫にしなければならなかったのだ。
室内で生活を始めた彼はいつも窓際に座って外を恋しそうに眺めていた。
そうだよね,誰だって外が気持ちイイよね。彼は砂の上でゴロゴロするのがダイスキだから
それまで奪ってしまうのは忍びない。
それで彼には首輪をつけてフェンスのある裏庭に繋げることにした。
これならゴロゴロも出来る、草も食べれる、お天道様の下で昼寝もオッケー。
家の中に入りたくなったら鳴けばイイ。
やってみると本人(本猫?)も意外と落ち着いてのんびりくつろいだりしちゃっている。
上手くやっていけるかも・・・!
こうして彼のライフスタイルはアウトドアからインドアへと移行したのであった。