久々の日本で、しかも季節は春先、
のんべんだらりと実家で過ごしている私の元へ家主が珍しく国際電話をかけて来た。
彼は電話代を考慮してか、はたまた鬼のいぬまに洗濯でもしているからか、
ほとんど全く滅多に電話などかけてこないのだ。
そんな人がたま~~~~にかけてくる電話というものは大抵ロクなないようではない。
10年ぶりにクラスメートから連絡があったと思ったら、その内容は商品の売りつけだった、
というようなことはどこでも聞かれる話であろう。
なのできっと朗報ではないということは覚悟はしていたが、
やっぱり彼の第一声はかなり重苦しい雰囲気に包まれ、ただ事ではないといった感であった。
「噛まれたよ。」
「え?だれ?」
「君の猫。」
「なんでまた・・・・?」
そして家主は堰を切ったように事の起こりを話し出した。
彼の話はこうである。
その日彼はカウチでビールを飲みつつ、仕事の後の一杯を楽しんでいた。
にゃんにゃんも外でのんびり夕涼みをしているはず、であった。
しかし、突然「フンギャァー!」「ンギャァー!」というものすごい声がしたので、
家主はカウチを飛び降り外ヘ出てみると、にゃんにゃんとどっかの猫が
ものすごい形相でけんかをしていた。
にゃんにゃんは背中の毛をバホバホおったててフーフー鼻息を粗くし、
家主にビックリして走って逃げていった猫を追いかけようと足を踏ん張り
首輪をグイグイと引っ張っている。
そんな興奮覚めやらぬ猫を触るのはタブーだと、猫を飼っている人なら誰でも知っている。
というか、人間だってけんかしてるときに入っていけば、とばっちりを食ってしまうのは
分かりきったことである。
んがしかし、
時たま熱血野郎に変身してしまう家主は、
そんな猫をかばうために彼のわき腹を「ガッ!」とつかんでしまったのだ。
8kgの巨体のにゃんにゃんは大暴れし、猫キックを連発したかと思うと
ここだとばかりに家主の内肘をガブリ!!と噛んでしまったのだ。
にゃんにゃんの鋭く尖った牙は1.2cmほどあってとっても長い。
その牙はなんということか、家主の血管に命中してしまったのだ!
ピュゥーーーーー!
家主の腕からは血が噴出し、クリーム色のカーテンを赤い水玉模様にしてしまったと言う。
私はその場にいなかったから確かではないが、
きっと家主は大声で叫んだに違いない。